交通事故で健康保険は使えない?
病院で,「交通事故の場合は,健康保険が使えない。」などと言われることが少なくないようですので,交通事故に遭った場合に,そもそも健康保険を使用して治療を受けることが出来るのか,健康保険を使用して治療を受けるデメリット,健康保険を使用するメリットについて説明していきます。
交通事故で健康保険は使える?
答えは,使えます。
このことは,旧厚生省が,「自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変わりがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点に誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるように指導されたい」との通達を行っていることからも明らかです。
もっとも,交通事故の賠償責任は,本来,交通事故の加害者が負うことから,第三者行為による傷病届等の書類を出す必要があります。
この書類を出すことによって,健康保険組合等の公的医療機関は,病院に立て替えて支払った7割分の治療費を交通事故の加害者に請求することが可能となります。
交通事故の被害者が,自己が負担した3割分の治療費を,示談等の際に加害者に請求するのと同様,公的医療機関も,上記の書類を利用して立て替えた7割分の治療費を加害者に請求するのです。
第三者行為による傷害届等の例
病院で健康保険は使えないと言われたら?
上記の通り,病院の説明は間違っています。
ですので,第三者行為による傷病届を提出する旨を伝えて下さい。
通常の病院では,健康保険を使って治療することが出来ると思います。
もっとも,中には,頑なに拒否する病院もあるようです。
その場合,交通事故の場合にも健康保険が使用出来る旨を説明し,病院に健康保険を使った治療をするよう強く求めることも一つの方法かもしれませんが,この方法はお勧めしません。
なぜなら,健康保険の使用を頑なに拒否するような病院は,交通事故の賠償制度を理解していないか,理解していても交通事故の被害者のことを親身に考えてくれない病院である可能性が高く,交通事故の被害者が治療する病院としては適切でないからです。
そのような病院に症状固定まで通院しなければならないのは,被害者にとって苦痛以外のなにものでもありませんし,仮に後遺障害の可能性がある場合にも適切に対処してくれる可能性も低いと思われますので,あえてそのような病院に通院するメリットは何もありません。
健康保険を使用することを快く受け入れてくれる病院は数多くありますので,そのような病院を探す方が後で後悔しなくて済むと思います。
健康保険を使用することのデメリット
健康保険を使用することには一定のデメリットがありますので,デメリットを理解した上で健康保険を使用して下さい。
交通事故において,健康保険を使用するもっとも大きなデメリットは,健康保険を使用しない場合と全く同一の治療が出来るとは限らないことです。
すなわち,健康保険を使用する場合には,自由診療でないことから,健康保険の適用がある治療しか受けることが出来ません。
したがって,医師が必要である考える治療方法や注射等があっても,その治療方法や注射等に健康保険が適用されない場合には,その治療を受けることが出来ません。
医師が必要であると考える治療を受けることが出来ないと,十分な治療効果が得られない可能性がありますので注意が必要です。
健康保険を使用した方が良い場合
もっとも,上記のようなデメリットを考慮しても,健康保険を使用した方が適切である場合もあります。
それは,自らの過失が大きい場合です。
簡単な例を使って説明していきます。
例えば,被害者の過失が30%で,治療費が100万円かかり,慰謝料を計算すると100万円となった場合。
健康保険を使用する場合も,健康保険を使用しない場合も,慰謝料は,自己の過失の割合分の30%が減額されますので,慰謝料は70万円となります。
さらに治療費の30%については,自らの過失によって発生したものですので,治療費の30%も負担しなければなりません。
まず,健康保険を使用しない場合は,100万円の30%である30万円が自己負担となりますので,70万円から30万円を引いた40万円が受け取ることが出来る賠償額となります。
一方,健康保険を使用する場合は,健康保険を使用することによって,治療費が3割負担となりますので,治療費は30万円となります。
その治療費のうち自らの過失30%分が自己負担となりますので,最終的に負担する治療費は10万円となります。
したがって,健康保険を使用した場合に受け取ることが出来るのは,70万円から10万円引いた60万円となります。
以上は,治療費が100万円を例にしましたが,入院した場合や長期間通院した場合には治療費がさらに高額となることも少なくありませんので,自らの過失が大きく,かつ,怪我の程度が重度の場合には,健康保険を使用するメリットは増すと考えられます。
大阪で交通事故専門の弁護士をお探しの方へ
交通事故に遭った場合,病院で治療を受けることは当然ですが,病院選びを誤ったり,治療費の支払い方法を誤ると示談の際に後悔することになります。
交通事故の治療は,賠償と連動しており,通常の病気や怪我の治療とは全く異なる側面を持っていますので,事故後早期に専門家の判断を仰ぐことをお勧めします。
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